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2025年表彰論文賞受賞者決定

お知らせ
2024.10.01

俵論文賞、澤村論文賞、論文奨励賞受賞者

2023年の「鉄と鋼」、「ISIJ International」に掲載された論文を対象に選考し、2025年に表彰する論文賞の受賞者が決定いたしました。

論文奨励賞について

「鉄と鋼」に掲載された前1か年の論文を審査し、論文中、学術上、技術上特に優れ、かつ将来の発展性が認められた論文を寄稿した若手著者(筆頭著者)に授与されます。2023年に新設されました。

卓越論文賞について

「鉄と鋼」または「ISIJ International」に掲載された論文のうち、原則として前10±1カ年にわたって学術上、技術上最も有益で影響力のある論文の著者に授与されます。2019年に新設されました。

俵論文賞(4件)

たたら製鉄の銑生成に及ぼす砂鉄中TiO2濃度の影響

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.1, pp.25-32
久保善博(全日本刀匠会)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-056

受賞理由

たたら製鉄法は、日本の古代製鉄法であり、近代の西洋式製鉄法が主流となる明治まで日本の代表的な製鉄法であった。現在でも、日本刀の原材料である玉鋼供給方法として技術が伝承されている。これまでに、現代技術を駆使してその機構解明が試みられているが、完全に解明されていない。特に、本法は、鉧(けら、鋼)と銑(ズク、銑鉄)を製造する方法に大別されるが、両者の優劣や原料である砂鉄性状の影響については、経験則に限られ、詳細な機構などは知られていなかった。

本論文は、たたら製鉄の原料である砂鉄の性状差に着眼し、特に原料中TiO2の重要性を世界で初めて示唆するものである。高いたたらの操業技術力によって、安定した貴重な小型実験炉のデータが提供されている。その上で、原料条件による操業と製品性状の変化が緻密に調査され、従来は不純物と考えられていたTiO2の重要な役割が、鉱物学的及び熱力学的な考察の上で解明されている。さらに、原料選鉱方法の変遷が、たたら製鉄法の栄枯に与えた影響をも技術史的に俯瞰されている。

同論文の研究成果は、日本古来のたたら製鉄法が持つ製鉄技術としての特殊性を明示するものであり、製鉄技術の理解に留まらず技術史など学術の発展に寄与するところも大きい。着眼の独創性の高さと現代技術をもって、日本の古代技術の合理性に果敢に切り込む斬新な論文であり、俵論文賞にふさわしいと判断できる。

Mo鋼とV鋼における合金炭化物の水素トラップと析出

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.5, pp. 438-449
谷口俊介、亀谷美百合、小林由起子、伊藤一真、山﨑真吾(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-130

受賞理由

近年、持続可能な社会の実現に向けて燃焼時にCO2を排出しない水素が注目を集めており、耐水素脆化鋼の開発がますます重要な課題となっている。特に、水素脆化を抑制するための水素トラップ機能を持つ炭化物の役割が注目されている。しかしながら、そのメカニズムは依然として不明な点が多く、さらなる研究が求められている。

本論文は、MoおよびVを添加した鋼材における炭化物の析出挙動と水素トラップ機能を、透過電子顕微鏡(TEM)や三次元アトムプローブ(3DAP)といった先端解析技術を駆使して詳細に解析している。その結果、HCP型炭化物に加えて、FCC型炭化物と母相の界面構造とC空孔の存在を明らかにした。さらに、FCC炭化物の界面面積とC空孔濃度の積がトラップ水素量と相関することを見出し、FCC炭化物の界面でのC空孔が水素トラップサイトとして機能することを提唱した。さらに、第一原理計算を用いてその妥当性を考察している。これらの結果により、合金成分の選定や熱処理条件の最適化に新たな指針を提供し、耐水素脆化鋼の開発における重要な知見をもたらした。

以上の成果は、耐水素脆化鋼の性能向上に大きく寄与するものであり、学術的および工業的な価値が極めて高いことから、本論文は俵論文賞にふさわしいと判断される。

単結晶Al2O3板を通した液体金属中のAl2O3粒子/単結晶Al2O3板間の焼結界面のその場観察

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.11, pp. 847-856
中本将嗣、田中敏宏(阪大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2023-025

受賞理由

連続鋳造の浸漬ノズルの内壁にAl2O3系介在物などが付着しノズルが閉塞することは、操業上の大きな課題であるとともに、集積した介在物がクラスタとなり剥離し、凝固シェル内に混入することにより、鋼の品質低下をもたらす。そのため、ノズルへのAl2O3の付着メカニズムを明らかにすることが望まれていた。しかし、従来研究では、高温溶鋼内部の直接観察の困難さから冷却後試料の観察に基づく推測にとどまっており、その手法の開発が望まれていた。

本論文では、可視光透過性を有する単結晶Al2O3板を通して液体金属中のAl2O3粒子と単結晶Al2O3板の焼結界面をレーザー顕微鏡によりその場観察する新しい着想に基づく手法を提案し、高温溶鋼中でのクラスタ生成機構の一つと考えられているAl2O3粒子の焼結挙動について溶融Ag中での直接場観察に初めて成功した点で新規性と独創性が極めて高い。さらに、焼結速度に影響する因子を考慮したモデル式を導出するとともに、溶鋼と同様にAl2O3への濡れが悪い溶融銀を用いたその場観察実験の結果を用いて、高温溶融金属における焼結現象を精密に検証した点も高く評価できる。

以上のように、本論文で得られた知見は学術的にも技術的にも極めて高い価値を有し、今後の本手法を使った新たな成果も期待できるため、俵論文賞にふさわしいと判断される。

量子ドットを活用した冷間圧延時のロールバイト油膜厚さ分布の測定

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.11, pp. 865-879
志村眞弘(日本製鉄、京大)、河西大輔、大塚貴之(日本製鉄)、山下直輝、平山朋子(京大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2023-040

受賞理由

冷間圧延工程では、スリップやチャタリングなどが大きな問題となっている。これらの問題は材料と圧延ロール間の摩擦係数変動が原因であることが知られているが、その対応は現場レベルの試行錯誤が続いて久しい。そこで鋼板のオイルピット観察に代表される様々な実験観察により、従来研究ではこのメカニズム解明を試みてきた。しかしながら、従来法では圧延油の油膜厚さやその分布の測定を行うことができず、この摩擦係数変動が起こる原因に関する定量的な検討が行われていない。

本論文は、新しい蛍光物質である量子ドットを用い、通常では観察困難な冷間圧延時のロールバイト油膜厚さの分布の可視化や油圧膜厚さの測定に成功し、冷間圧延時のロールと被圧延材との界面における圧延油の状態を定量的に評価することで摩擦係数変動が圧延潤滑性に与える影響を詳細に検討している。さらに、高強度材での油膜厚さの減少と摩擦係数増加に関する機構の解明、油膜厚さの閾値で区別される2種類の流体潤滑と境界潤滑を用いた従来の2次元的潤滑機構から進歩した有用な知見を得ている。

以上のように、本論文から得られた結果や知見は、技術的、学術的有用性が高いため、本論文は俵論文賞にふさわしいと判断できる。

澤村論文賞(6件)

Permanent Strength of Interstitial-free Steel Processed by Severe Plastic Deformation and Subsequent Annealing

ISIJ International, Vol.63(2023), No.1, pp.179-189
小泉隆行(東京高専、現 法政大学)、髙橋知己、黒田充紀(山形大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-328

受賞理由

材料強度の評価には様々な指標がある。冷間巨大ひずみ加工材などのようにひずみ速度感受性が材料に依って異なる場合、一般的なひずみ速度の引張試験では、熱的かつ時間依存の強度が含まれる評価になるため、材料の長期使用の評価で必要な恒久的な応力保持能力の評価ができないという問題があった。本研究では、応力緩和試験を用いることで、非熱的かつ時間非依存の「永久強度」という考え方を提案し、鉄鋼材料が構造材料として高い優位性を有することを明らかにした。

IF鋼に巨大ひずみ加工を与えた材料を対象に、結晶粒微細化とその後の低温焼なましが永久強度に与える影響を調査した結果、一般的なひずみ速度(10-2 / s)で得られる0.2%耐力のうち、応力緩和後の永久強度は約65%であり、その後の焼なましで約90%まで改善すること、AlやCuとは異なり、IF鋼の微細化が永久強度の増加に寄与することを明らかにした。

以上、材料の長期使用で重要な「永久強度」という考え方を提案し、これを用いて鉄鋼材料における結晶粒微細化が他の材料に比べて有用性が高いことを示したことから、材料開発における新しい指標となることが期待され、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。

Quantitative Analysis of Hardening Due to Carbon in Solid Solution in Martensitic Steels

ISIJ International, Vol.63(2023), No.3, pp. 569-578
浦中祥平、平嶋一誠(九大)、前田拓也(九大・日本製鉄)、増村拓朗、土山聡宏(九大)、川本雄三、白幡浩幸(日本製鉄)、植森龍治(九大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-416

受賞理由

実用鋼においてマルテンサイト組織の硬さの制御は、鋼の高強度化や高性能化する際に重要である。しかし、マルテンサイトの硬さの発現メカニズムについては、固溶C、転位、粒径、析出物が影響していることは理解されているが、各々の影響度については必ずしも明確に説明されていなかった。

本論文では、マルテンサイトの硬さにおよぼす固溶Cの影響を定量的に評価し、マルテンサイトの硬さの起源解明に挑戦している。著者らは電気抵抗測定による固溶Cの定量化を行うとともに、転位密度およびミクロ組織の定量化を精緻に行った。そして、固溶C、転位、析出物、粒界、残留オーステナイトが強度・硬さにおよぼす影響を定量的に評価し、固溶Cが強度発現に大きく寄与していることを明確に示した。各因子の定量化手法は既知の手法であるが、焼入れ材と焼戻し材にそれらを適用して解析することで、多くの研究者が理解できる論理構成で固溶Cの影響を導いている。また、今後さらにマルテンサイトを活用して鉄鋼材料の特性向上・多様化を進めていくためにも有益な知見である。

以上、本論文は、鉄鋼材料において重要なマルテンサイトの硬さへの強化因子の影響を明確化した点において、学術的・工学的に価値の高いものであり、澤村論文賞にふさわしい論文と判断できる。

Microscopic Shear Deformation Characteristics of the Lüders Front in a Metastable Austenitic Transformation-induced-plasticity Steel

ISIJ International, Vol.63(2023), No.5, pp.899-909
丸山直紀(阪大・日本製鉄)、山本三幸(阪大)、田畑進一郎(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-550

受賞理由

鋼の不連続降伏時には不均一変形帯(リューダース帯)が発生・伝播する。鋼の不連続降伏についてはこれまでに様々な研究がなされてきたが、その機構について鋼種や強度に依存しない普遍的な理解には至っていない。

本論文は、不連続降伏機構とそれに影響を与える要因の解明を目的とし、種々の降伏強度を有するフェライト鋼およびTRIP鋼に対し、引張試験中でのリューダース前線における変形機構や塑性安定状態について精緻な実験観察により検討したものである。特に、TRIP鋼とフェライト鋼について引張試験中のDIC観察やSEM-μDICおよびEBSD観察など高度な計測技術を駆使することで、リューダースひずみと降伏応力の関係が明らかにされるとともに、リューダース前線部は階層的なミクロなせん断変形帯から構成されることが見出されている。また、転位密度の異なる鋼材を用いた系統的かつ緻密な検討により不連続降伏やリューダースひずみ量の普遍的な支配因子などの基礎的な知見を導出し、リューダース前線における変形機構や複雑な塑性安定性の理論を深化させている。加えて、これらの知見は、高強度TRIP鋼のプレス加工などでしばしば課題となる不連続降伏や伸びの制御にも有益な知見できる。

以上より、本論文は学術面、技術面で高く評価でき、優れた論文として澤村論文賞にふさわしいと判断できる。

Formation Mechanism of Secondary Inclusions in Fe-36mass%Ni Alloy Using a Novel Combination Analysis Technique

ISIJ International, Vol.63(2023), No.6, pp.970-980
深谷 宏(日本製鋼所M&E、現 東北大学)、Jonah Gamutan(東北大、現 Curtin University)、久保 真、矢野慎太郎、鈴木 茂(日本製鋼所M&E、現 日本製鋼所)、三木貴博(東北大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-433

受賞理由

介在物は鋼の靭性、疲労強度、耐腐食性に悪影響を及ぼす一方で、機械的性質を向上させる析出物の核生成サイトとしても利用することができ、鋼の高品質化に向けては冷却凝固中に生成する二次介在物の大きさ、数、組成、分布の適切な制御が重要である。これまでミクロ偏析と二次介在物の生成挙動の関係についてはモデル計算に基づく研究が多く、実験的に直接観察した研究は少なかった。

本論文では、大型鋼塊を想定した比較的遅い冷却条件も含めて、低熱膨張合金であるFe-36%Ni合金中の二次介在物の生成挙動と冷却速度の関係を精緻な実験と熱力学的解析に基づいて明らかにした。SEM-EDX自動介在物分析とEPMAによる元素マッピングを組み合わせることにより、ミクロ偏析と二次介在物の相関を調査したことは特筆すべきである。同じ視野での結果を重ね合わせ、介在物中のAl2O3濃度と固相率の関係から介在物組成が凝固過程で変化することを実験的に捉えることに成功した。また既往知見との照合や熱力学計算による検討でその相関を合理的に説明した点で、意義が高い。

以上、本論文で提案された実験・解析手法は二次介在物生成挙動の解明に資するものであり、今後の更なる発展が期待される。このように、本論文は学術上、技術上の両面において非常に価値があり、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

Effect of Re-ignition Method on Sinter Yield Through Improving Carbon Combustion Ratio at Upper Layer of Sinter Packed Bed

ISIJ International, Vol.63(2023), No.6, pp.1002-1010
松村 勝、小杉亮太、山本雄一郎、長田淳治、樋口謙一(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-485

受賞理由

従来、焼結層上層の歩留まりは、熱伝導による熱損失と未燃炭素量が多いことなどにより、極めて低いことがわかっていた。 その対策として、REMO-tecが開発された。REMO-tecとは、一定の間隔で焼結層表層を再点火する焼結技術である。この方法は、高い焼結還元性を維持しながら焼結収率を向上させる効果がある。この効果により、CO2排出源である粉コークスを削減できる。  

本論文では、焼結層表層を適正な間隔を空けて再点火する技術に関する基礎検討を行った。焼結層全層で熱量適正化を図るべく、焼結層およびガスの熱収支より、粉コークス燃焼率を考慮した消費熱量を層別に定量化し、歩留まりとの対応関係を整理した点が研究の独創性である。この定量化を通じて、再点火法が高効率な熱利用法であり、再点火熱量の4倍もの粉コークス削減が可能であることが新たに見いだされた。併せて、高エネルギーX線CT解析法による焼結ケーキ全体の構造解析を確立し、 再点火による上層部の強度向上を定量評価できた点は、実験と同様の現象を実機確認できた点で極めて優れていると言える。実機実績としての粉コークス配合6%削減は、産業上の有用性が極めて高い。

以上より、本論文は、技術的・学術的にレベルが高く、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

Effect of Alumina on the Phase Equilibria of the Iron-rich Corner of the CaO–SiO2–Fe2O3 System at 1240℃ in Air

ISIJ International, Vol.63(2023), No. 11, pp. 1825-1833
高橋あまね、内沢幸弘、佐藤博一、渡邊 玄(東工大)、遠藤理恵(芝浦工大)、須佐匡裕、林 幸(東工大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2023-292

受賞理由

焼結鉱でのカルシウムフェライト(SFCA、SFCA-I)の生成挙動は、焼結鉱の高品質化に影響するため、生成組成域と相平衡関係の把握が必要とされてきた。近年、鉄鉱石は劣質化しており、鉄鉱石中のAl2O3含有量が増加しているため、1250℃近傍での、焼結鉱の主要成分であるCaO-SiO2-Fe2O3- Al2O3系状態図の取得が求められた。

本論文では、独自の実験手法、分析手法により、CaO- SiO2- Fe2O3- Al2O3状態図におけるSFCA相、FCSA-I相の組成域および液相との相平衡関係を明らかにし、その知見を含む状態図を作成した。その中で、SFCAの組成範囲に対するAl2O3の影響を検討しており、有益な知見が得られた。この研究によりAl2O3濃度の上昇がSFCA単相領域を拡大すること、SFCA-I単相領域が出現すること、液相線が低Fe2O3側にシフトすること明らかにした。すなわち、鉄鉱石中のAl2O3濃度の上昇により、焼結鉱の鉄鉱石粒子同士を結合するスラグ量が低下し、スラグ中から晶出するSFCA量が増加かつSFCA-Iの生成が促進される。この大気雰囲気下における、CaO–SiO2–Fe2O3系の相平衡に及ぼすAl2O3の影響に関する知見は、劣質鉄鉱石から焼結鉱を製造するための組織制御に資するものであり、本論文は澤村論文賞にふさわしいと判断される。

論文奨励賞(2件)

Fe-3 mass%Si合金の疲労に伴うセル組織発達とき裂発生

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.1, pp.76-85
○中野寛隆、宮澤知孝(東工大)、首藤洋志(日本製鉄)、藤居俊之(東工大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-078

受賞理由

鉄鋼材料における疲労特性の重要性は周知のとおりであるが、bcc金属のすべり系の複雑さゆえに、系統的な基礎研究は少なく疲労破壊現象の理解は十分には進んでいない。本論文はFe-Si合金を用いて疲労荷重下において、すべり系の活動により発達する転位組織、特にセル組織の発達とそれによって生じる疲労き裂発生の機構の解明に取り組んでいる。ECCIによる転位組織観察およびEBSDを用いた二面解析を組み合わせて実験が精緻に行われており、その観察結果より、疲労におけるセル状組織の発達過程が明確にまとめられている。また、結晶学的な考察も深く、セル組織発達について説得力のある解釈が述べられている。これらの結果は、鉄鋼材料の疲労破壊挙動の理解に役立ち、疲労強度に優れた鉄鋼材料の開発につながるものである。今後、初期方位や粒径が異なる結晶粒についても同様の観察を重ねることで全体像が明らかとなり、疲労特性と塑性変形挙動の関連が明らかになっていくことが期待されるとともに、クラック形成過程に対する添加固溶元素影響やその他組織因子の影響に関する研究に繋がる可能性があり、今後の研究発展性が大いに期待できる論文である。

以上のように、本論文で得られた知見は学術的、技術的に高い価値を有し、今後の発展性も期待されるため、論文奨励賞にふさわしいと判断できる。

機械学習を活用した連続鋳造機の浸漬ノズル形状最適化

鉄と鋼, Vol.109(2023), No.6, pp.513-524
○難波時永、岡田信宏(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-094

受賞理由

連続鋳造スラブの欠陥は歩留りの低下を招き、資源およびエネルギー効率を低下させる。これらの欠陥を低減するために、多大な努力がなされている。その一つとして、製造現場を中心に浸漬ノズルの突出口形状適正化に関する種々の取り組みが行われている。従来は水モデルや流動解析を使用して、突出角や浸漬深さなどの限られた要素を適正化するにとどまっていた。

本論文では、著者らは数値流動計算で得られたノズル条件と溶鋼流動の関係を基に、機械学習の手法を用いてノズル条件とスラブ中の欠陥の関係を予測することができる方法を確立した。そして、最適化アルゴリズムを用いて最適なノズル形状を求めた。従来の数値流動計算では長時間を要し、限られたノズル形状が溶鋼流動に与える影響を明らかにすることが限界であった。本研究の手法では機械学習を取り入れることで、ノズル形状と欠陥の関係を高速に予測することが可能になり、独創的である。また、本論文は機械学習の適用方法と結果に対する考察が論理的に述べられ、読者の理解を助けるものである。今後は電磁力との連成など、鋳型内流動制御の一貫最適化にもつながる内容である。

以上のように、学術的、技術的に更なる発展が期待され、本論文は論文奨励賞にふさわしいと判断される。

卓越論文賞(1件)

相界面析出組織を有するTi,Mo添加低炭素鋼の引張変形挙動

鉄と鋼, Vol.99(2013), No.5, pp. 352-361
紙川尚也、阿部吉剛、宮本吾郎(東北大)、船川義正(JFEスチール)、古原 忠(東北大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.99.352

転載論文
Tensile behavior of Ti, Mo-added low carbon steels with interphase precipitation
ISIJ International, Vol. 54 (2014), No.1, pp.212-221
https://doi.org/10.2355/isijinternational.54.212

受賞理由

鉄鋼材料の高強度化の手法の一つとして、微細な析出物を分散させる方法が知られている。しかしながら、ナノサイズの合金炭化物を析出させることのできる相界面析出材において、これら炭化物が強度・延性に及ぼす影響については不明な点が多く、ナノ析出組織を有する鋼の製造技術の確立のため、力学特性やその変形機構の理解が望まれていた。

本論文では、低合金低炭素鋼のフェライト変態におけるオーステナイト/フェライト成長界面で生じる合金炭化物の相界面析出挙動およびこれが力学特性に及ぼす影響を調査し、Ti、Moの複合添加により、より微細な合金炭化物が得られること、さらに合金炭化物のサイズが小さいほど高強度でありつつ、高い延性を維持することを示した。微細合金炭化物の強度への寄与として、通常のOrowan機構ではなく、Ashby-Orowan機構により析出強化に寄与していることを示し、また優れた加工硬化や延性を発現するための微細合金炭化物と転位組織の関係に基づく変形機構を提示するなど、ナノ析出組織を有する鋼の工業的利点を学術的に検討した点は独創性に優れていると言える。この論文で提示された成果は、特にISIJ Internationalへの転載論文において海外から多くの引用があり、10年を経た現在においても継続して多くの引用がなされている。以上のことから、卓越論文賞に相応しいと判断される。