平成30年 俵論文賞、澤村論文賞、ギマラエス賞 受賞決定のお知らせ
2017年の「鉄と鋼」、「ISIJ International」に掲載された論文を対象に選考し、平成30年論文賞の受賞が次のとおり決定いたしました。
俵論文賞(4件)
分割造粒法を活用したマグネタイト鉱石の酸化促進による焼結鉱強度および被還元性向上
鉄と鋼, Vol.103, No.6, pp.388-396
松村 勝, 高山 透, 原 恭輔, 山口泰英, 石山 理, 樋口謙一, 野村誠治(新日鐵住金), 村上太一(東北大), 林 幸(東工大), 大野光一郎(九大)
本論文は、将来の鉄鉱石資源の微粉化を見据えた上で、従来は相反関係ゆえ成しえなかった焼結鉱の強度と被還元性を、マグネタイト微粉鉱石酸化促進によって共に改善できる可能性を見出した点で、技術有用性が高い。
本論文の大きな特徴は、産学連携による検討である。大学側では、多成分系(Fe-Ca-Si-Al-O)相平衡および固液共存下における反応過程に着目し、マグネタイト微粉鉱石を、石灰石やコークスとは遠隔配置し高Al2O3鉄鉱石とは近接配置する原料層設計が有効であることを明らかにした。
企業側では、大学側で得られた知見を具現化すべく、焼結原料を二系統に分割して造粒する“分割造粒技術”を活用し、原料の遠隔・近接配置の効果をオフライン試験で検討した。その結果、マグネタイト鉱石の酸化促進を介して焼結鉱強度・被還元性が共に向上することを明らかにした。ここで、焼結鉱の構造解析において、単に気孔率ではなく1~2000μmの気孔径分布・気孔円形度分布を考慮し、形成鉱物の同定や焼結層の熱収支と併せて、焼結時の溶融抑制を考察した点が研究の独創性である。本効果はコークス配合量削減による環境負荷低減に結びつくとともに、微粉鉄鉱石多配合を通じた資源対応力強化に発展する可能性も高い。
本論文は、環境・資源分野における将来も含めた産業上の有用性、研究の独創性および高効率な産学連携の点で、俵論文賞にふさわしい論文と評価できる。
金属間化合物により粒界被覆した多結晶Ni基耐熱合金の微細組織とクリープ特性
鉄と鋼, Vol.103, No.7, pp.434-442
伊藤孝矩, 山﨑重人, 光原昌寿, 中島英治, 西田 稔(九大), 米村光治(新日鐵住金)
火力発電プラントのエネルギー変換効率のためには、高温高圧条件化での耐熱材料のクリープ強度を高めることが必要とされている。従来は、オーステナイト系耐熱鋼が使用されてきたが、さらなる過酷な条件下においては、Ni基耐熱合金の適用が検討されている。
本論文の著者らは、Ni-20Cr-15Coをベースにγ’相構成元素として、TiおよびAlを添加し、さらにWを複合添加して、金属間化合物であるLaves相などの粒界析出を狙った合金を作製し、クリープ特性を評価した。試験結果は、従来のオーステナイト系耐熱鋼やγ’相のみを利用したNi基耐熱合金よりも優れたクリープ強度を示した他、加速クリープ域でひずみ速度の上昇が停滞、あるいは再度減少する極めて興味深い結果が得られた。これらの特異的なクリープ挙動を、SEMおよびTEM観察による、粒内析出するγ’相、粒内および粒界に析出するLaves相、σ相の精密かつ定量的な測定により、粒内析出と粒界被覆析出を複合させるというクリープ強化機構を明らかにした。特に、加速クリープ域でひずみ速度の上昇が停滞する現象に対して、粒内の粗大析出Laves相によるすべり面の分断によることを明確に示したことは、学術的に高く評価できる。
本論文は、論理展開が極めて精緻である他、結論の技術的、学術的な有用性も大きく、完成度の高い論文であり、俵論文賞にふさわしいと判断できる。
高精度FE-EPMAによる低炭素鋼の初析フェライト変態初期における炭素の分配
鉄と鋼, Vol.103, No.11, pp.622-628
山下孝子(JFEスチール), 榎本正人(茨城大), 田中裕二, 松田広志, 名越正泰(JFEスチール)
低炭素鋼の初析フェライト変態における変態機構とγ/α間の炭素分配挙動に及ぼす合金元素の添加量の影響について、熱力学的に予測する試みはなされているものの、実験による炭素濃度の高精度測定が困難なため、その検証が課題となっていた。
本論文ではEPMAの電子線照射により試料表面に蓄積する炭化水素のコンタミネーションを抑制する手法を考案し、新規開発した炭素濃度分析装置・Cアナライザーを利用して、Fe-C-Mn-Si合金におけるγ/α変態時の炭素分配を高精度かつ詳細に調査した。特に、炭素濃度の定量面分析はCアナライザー以外では測定することができない世界唯一のデータであり、他に類を見ない。さらに、初析フェライト変態初期のγ/α界面における炭素濃度について、局所平衡およびパラ平衡理論に基づいてThermo-Calcで計算した結果を、複数の実験で検証した点は極めて独創的な研究成果である。
本論文で開発された手法は、鉄鋼材料の基本系であるFe-C-Mn-Si合金の二相域焼鈍時における炭素の分配挙動を解明したことの学術的価値はもちろんのこと、変態機構が局所平衡かパラ平衡かを解明することにより、従来知り得なかったγ/α変態速度のMn添加量による変化を見出したことの工業的価値も極めて大きく、今後、更なる相変態機構の解析に重要な貢献が期待される。以上より、本論文は俵論文賞にふさわしい論文であると評価できる。
高速度ビデオカメラによる横型遠心鋳造プロセスの直接観察
鉄と鋼, Vol.103, No.12, pp.763-770
江阪久雄, 坪根誠一郎, 宮田寛之, 渡辺大起, 金子紘士, 河合康輔, 篠塚 計(防衛大)
遠心鋳造中の凝固現象を直接観察できる世界唯一の可視化実験装置を自ら構築し、凝固中に生成した等軸晶の鋳型に対する相対的な動きや自由表面の挙動の観察に成功している。高速度カメラを回転する実験装置の中に搭載し、等軸晶の動きをより詳細に解析できる実験技術を確立した点では独創性が高い。また、自由表面の動きを克明にとらえることが可能になったことから、自由表面の動きは一定ではなく回転ごとに乱れていることを明瞭に観察し、これが等軸晶生成に大きな作用をすることを示した。さらに、撮影コマ数を高めたことにより、観察・解析可能な回転速度を上昇させることができ、直径100mmのガラス容器外周において遠心力を約50Gまで高めることに成功した。鋳型回転数を上げることにより、液相流動が安定し、等軸晶の生成が抑制されことを初めて明らかにしている。また、この遠心力の大きさは実操業のレベルに近いため、実プロセスでの固液共存体の挙動が明らかとなった。
以上より、独自の実験設備を構築することにより遠心鋳造プロセスを定量的に解析したことは実用的かつ学術的いずれにおいても高く評価される。従って、本論文は俵論文賞にふさわしい論文であると判断できる。
澤村論文賞(4件)
Microstructure Evolution during Reverse Transformation of Austenite from Tempered Martensite in Low Alloy Steel
ISIJ International, Vol.57, No.3, pp. 533-539
篠﨑智也(神戸製鋼), 友田 陽(物材機構), 吹野達也(TSLソリューション), 鈴木徹也(茨城大)
本論文では、これまでに多くの研究が行われ、大型鍛鋼品の強度と靱性向上のために重要である、逆変態利用による結晶粒微細化に注目し、微細化メカニズムとオーステナイトメモリーの解明に取り組んでいる。低合金鋼より作製した焼戻しマルテンサイト鋼を用いて、専用の加熱ステージを利用したSEM-EBSD法による高温でのその場観察を行った。得られた結果から、逆変態オーステナイトは、結晶方位関係より2種類のタイプ(タイプA;旧オーステナイト粒と同じ結晶方位を持つラス境界に沿って生成した逆変態オーステナイト粒.タイプB;旧オーステナイト粒とは異なる結晶方位を持つ旧オーステナイト粒界か粒内で生成した逆変態オーステナイト粒)に分類されることを示し、これらの核生成、成長と、オーステナイトメモリーとの関係を議論した。これらより、オーステナイトへの逆変態の核生成メカニズムと、拡散型逆変態におけるオーステナイトメモリー発現との関係を明らかにした。さらには、逆変態完了後に発現するオーステナイト粒の微細化のメカニズムを初めて明らかにした。
以上、本論文は学術上、技術上の両面において高く評価できる内容となっており、澤村論文賞にふさわしい論文である。
Intra–Particle Water Migration Dynamics during Iron Ore Granulation Process
ISIJ International, Vol.57, No.8, pp.1384-1393
樋口隆英(JFEスチール), Liming LU(CSIRO Mineral Resources), 葛西栄輝(東北大)
高品位な鉄鉱石の不足、価格高騰などから、日本ではSiO2、Al2O3等の脈石成分を多く含む、あるいは微粉化した低品位な鉄鉱石を高炉で使用する必要性が高まっている。今後、高炉の安定操業、高生産性を維持するためには、上記した低品位な鉄鉱石を高炉装入前に、適正に処理し、強度と被還元性を担保する必要がある。鉄鉱石の処理の中でも、特に造粒は装入物の構造や強度に大きく影響を与える重要なプロセスである。造粒には、水分、石灰、コークスを添加して粒度を大きくするが、その際の鉄鉱石粒子内の水分浸透状況などは完全には解明されていない。
本論文は、製銑工程における鉄鉱石の造粒のメカニズムを解明することを目的とした、鉄鉱石粒子内の水分浸透挙動の解析に関するものである。浸透性に及ぼす気孔構造の影響を検討するために、気孔系分布と閉塞した気孔の効果を考慮した新規モデルを提案した。微細な気孔を多く有する鉄鉱石では毛細管力が大きくなり、閉塞した気孔内への水の浸透率が高くなることを理論と実験の両面から検証し明らかにした。
以上、本論文は学術的かつ工学的に優れており、特に製銑分野においてその波及効果が期待でき、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。
Activities of FexO in Molten Slags Coexisting with Solid CaO and Ca2SiO4–Ca3P2O8 Solid Solution
ISIJ International, Vol.57, No.10, pp. 1725-1732
三輪紘平, 松儀亮太, 長谷川将克(京大)
製鋼プロセスにおいて、スラグとCaO消費の減量が求められている。 その課題解決に向けては、脱リンに使用されるフラックスならびにスラグの熱化学的性質の知識を深化し、溶融スラグ中へのCaOの溶解機構を把握することが鍵となる。本論文は、CaO–SiO2–P2O5–FexO 4元系におけるCaO+Ca2SiO4–Ca3P2O8固溶体+液体スラグの3相共存に着目した。この3相共存領域の液相組成を1573Kにおいて決定し、これら4元系液体スラグ中のSiO2 と P2O5含有量は 非常に低いことを明らかにした。1542~1604KにおけるFexO の活量を安定化ジルコニア電解質を用いた電気化学法によって測定し、固体CaOと溶融スラグ間の反応メカニズムを支持する結果を得た。
すなわち、2CaO・SiO2固溶体をリン吸収相として活用するときのリンの挙動を評価する際に必要な相平衡と酸化鉄の活量を精緻に測定したもので、実験技術、相平衡の理解、リン分配比予測およびその高度な導出概念に渡って非常に価値がある論文である。これら、学術上、技術上の両面において高く評価することができ、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。
An Online Rolling Model for Plate Mill Using Parallel Computation
ISIJ International, Vol.57, No.11, pp. 2042-2048
大塚貴之, 阪本真士, 高町恭行, 東田康宏, 瀬川裕司,竹島将太(新日鐵住金)
厚板圧延においてはTMCPによる材質作り込みが行われ、合金コストの削減と高性能な材料特性の両立を図る技術が多く採用されている。このためには圧延時に精密に温度や圧下のコントロールを行う技術が要請される。
本論文において、著者らは上記の要請に応えるオンラインセットアップシステムを開発した。厚板圧延におけるセットアップの困難さは、あらかじめ全圧延パス数が確定しておらず、自由度が高いゆえに好適なスケジュールを見出すには多くの計算量が必要な点がある。本システムでは、著者らが開発した温度モデルと、材料の転位密度変化、静的回復、静的再結晶モデルを取り込んだ変形抵抗予測モデル、圧下力関数モデル等精緻なモデル群を組み合わせた高精度計算に加え、計算時間についてはGPGPUを用いた並列計算を導入してオンライン計算に適用可能範囲に収めた。
本技術は学術的に先進のソフトウェア技術を最新のハードウェアを活用したトータルシステムの形に落とし込んだものであり、工業的に有益な結果をもたらすと期待される。
従って本論文は、学術的、工業的の両見地から価値が高く、澤村論文賞に値すると評価できる。