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平成29年 俵論文賞、澤村論文賞、ギマラエス賞 受賞決定のお知らせ

お知らせ
2017.09.27

2016年の「鉄と鋼」、「ISIJ International」に掲載された論文を対象に選考し、平成29年論文賞の受賞が次のとおり決定いたしました。

俵論文賞(4件)

振動電磁場の印加下における導電性流体中の非導電性粒子挙動に及ぼすバセット力の影響

鉄と鋼, Vol.102(2016), No.3, pp.106-112
丸山明日香,岩井一彦(北大)

受賞理由

溶鋼中の介在物の分離促進は高清浄度鋼溶製のために非常に重要な課題であり、電磁場を用いた介在物除去に関する研究がなされてきた。本論文は、介在物の制御に向けて、振動電磁場を溶鋼に印加した場合の介在物粒子の運動におけるバセット力の重要性に着目し、振動電磁場中の粒子の非定常的な運動におよぼすバセット力の影響を明らかにすることを目的としている。電解水溶液と非導電性固体粒子からなるモデル実験と理論解析から、粘性抵抗力や慣性力が支配的な条件でもバセット力を無視することで粒子の運動に大きな誤差が生じることを示し、バセット力が溶鋼―アルミナ介在物系の介在物挙動に大きく影響を与えることを明らかにしている。すなわち、振動電磁場中の介在物凝集に、バセット力を考慮する必要性を実験と計算の両面から詳細に調査した研究であり、着眼点の独創性が高く、バセット力の影響度を定量的に検討した点に学術的な意義がある。

本論文において示された知見は、実用的なシミュレーションモデル構築の際に有益な情報を提供するものであり、電磁場印加時の介在物挙動を精確に把握し、電磁力利用の新たな可能性を引き出すことが期待され、俵論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

ひずみ・微細組織・き裂/ボイドのマルチスケール観察による鉄鋼の損傷発達機構解析:εマルテンサイトが関与する損傷発達の場合

鉄と鋼, Vol.102(2016), No.5, pp.227-236
金子貴裕,小山元道,藤澤友也(九大),津﨑兼彰(九大,物材機構)

受賞理由

構造材料の延性破壊挙動の本質的な理解のためには、変形進行に伴う局所歪分布、金属微細組織、亀裂、ボイド発生、成長挙動を、サブμmからmmスケールまでのマルチスケールで段階的に観察することが有効である。

本論文では、Fe-28Mn合金の変形組織から採取したレプリカ画像に対して、画像相関法(DIC)を適用して各変形段階での組成歪の集中挙動を観察し、亀裂、ボイド発生に至るまでの歪分布変化を定量的に解明した。さらに後方電子散乱回折(EBSD)法を用い、オーステナイト相とεマルテンサイト相を同定、結晶方位測定により、き裂発生に及ぼすεマルテンサイト相生成の影響および引張方向との関連を明らかにした。続いて電子チャンネリングコントラスト(ECC)法を用い、粒界近傍やマイクロボイド周辺における転位下部組織等を詳細に観察した。考察においては、精緻なマルチスケールでの観察結果に基づき、損傷発達過程を潜在、発生、成長と段階的に取り扱い、変形誘起εマルテンサイト形成のボイド発生、成長に対する寄与を、多面的に興味深く議論した。

本論文で示された手法は、他の金属材料にも適用することが可能であり、今後の延性破壊挙動の解析に重要な貢献をするものと考えられる。したがって俵論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

還元処理による製鋼スラグからのりん分離挙動に及ぼすスラグ組成の影響

鉄と鋼, Vol.102(2016), No.9, pp.485-491
中瀬憲治,松井章敏,菊池直樹,三木祐司(JFEスチール)

受賞理由

鉄鉱石やコークス由来の不純物を除去する工程で発生する、製銑および製鋼スラグは、粗鋼とほぼ同体積の量が発生するため、その量自体の抑制は勿論、他工程での再使用や、別用途への再利用は、製鉄コスト削減、環境負荷低減の面から、非常に重要である。とりわけ製鋼スラグはCaO濃度が高いことから、高炉や溶銑予備処理工程におけるCaO源として再使用するための技術開発が、従来から数多く行われてきた。一方で、P2O5濃度も高く、鋼材品質へ与える悪影響が少なからずあるため、再使用量には限界があった。

そこで、P2O5の事前除去という課題に対し、著者らは、Pへの還元反応と併せて進行する、Pの気化による分離挙動に着目し、これらの反応や挙動に及ぼす、塩基度、FeO濃度、温度の影響を詳細に調べ、還元が進む条件と気化が進む条件を熱力学平衡の観点から理論的に明らかにした。さらに、P2O5の還元率とPの気化分離率を高めるため、スラグの初期組成に応じた熱処理方法を提案した。

本論文は、製鋼スラグの資源化による再使用量拡大に向けて、有益な知見を提供しており、工業的な価値が大いに認められる。また、これらの知見や考察は、工業規模のプロセス設計への活用、さらには、P自体の回収による資源化への展開が期待されるため、俵論文賞にふさわしい論文と判断できる。

Si添加鋼のFe-Zn合金化反応に及ぼすMn添加量の影響

鉄と鋼, Vol.102(2016), No.10, pp.583-590
牧水洋一,鈴木善継(JFEスチール),谷本 亘(JFEテクノリサーチ),青山朋弘,吉見直人(JFEスチール)

受賞理由

合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、その優れた特性から自動車用防錆鋼板として広く適用されている非常に重要な鋼板である。更に、車体軽量化や衝突安全性能の点から、高強度鋼板の適用が急速に拡大しており、本研究が対象としている高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の合金化反応に及ぼす鋼板成分の影響に関する研究は実用上、極めて重要なテーマである。

著者らはこれまで報告例が少ないSiと共に添加されたMnに着目し、再結晶焼鈍時における表面酸化状態を詳細に解析するとともに、表面状態がめっき後の合金化挙動に及ぼす影響を明らかにした。この結果、1.5mass%Si-1.4mass%Mn鋼の再結晶焼鈍後表面におけるSiO2、Mn2SiO4の面内分布、亜鉛めっき後のFe-Zn合金化反応におけるMn2SiO4形成箇所での合金化促進、Mn添加量の増加に伴う再結晶焼鈍時の表面酸化物の変化と合金化反応の促進などの重要な知見を得た。これらは今後の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板開発において極めて有用である。さらに、断面観察による100nm以下の薄い表面酸化物の構造解析により、この様な微視的領域において、再結晶焼鈍時の表面酸化物が生成酸素ポテンシャルの序列にそった構造を示すことも明らかにしており学術上も有用である。

本研究は、現状の鉄鋼材料開発における重要テーマに取り組んでいる上、実用上、学術上いずれにおいても得られた知見はも極めて有用である。従って、本論文は俵論文賞に値する論文であると評価できる。

澤村論文賞(4件)

Hydrogen Permeation into a Carbon Steel Sheet Observed by a Micro-capillary Combined with a Devanathan-Stachurski Cell

ISIJ International, Vol.56(2016), No.3, pp.431-435
伏見公志, 神実紗子, 北川裕一, 中西貴之, 長谷川靖哉(北大)

受賞理由

近年、地球環境対策の観点から、クリーンな水素エネルギーや自動車軽量化に寄与する高強度材への関心が高まっており、耐水素脆性に優れる鉄鋼材料の設計には基礎的な水素侵入メカニズムの解明が重要である。材料に侵入・透過する水素量の定量的な測定法として、Devanathanらにより電気化学的手法が確立されており多くの研究がなされているが、組織因子の影響を明らかにするためには、より局所的な領域における挙動を把握する必要があった。

著者らは腐食挙動の解明に用いられてきたmicro-capillary cellをDevanathan-Stachurski cellに組み込むことで、結晶粒サイズレベル領域の水素侵入挙動把握を可能とした。更にEBSD測定と組み合わせ測定箇所を特定。炭素鋼の水素拡散係数について、結晶粒界の拡散係数が粒内の2倍以上となることを明らかにした。

本研究の着眼点が優れている上、実用的、学術的いずれにおいても今後の鉄鋼材料開発における重要なテーマに取り組んでいる点が高く評価される。論文中、本手法による研究を更に進めるとの記述があり、今後の更なる成果を期待したい。以上より、本論文は澤村論文賞に値する論文であると評価できる。

Development of Biaxial Tensile Test System for In-situ Scanning Electron Microscope and Electron Backscatter Diffraction Analysis

ISIJ International, Vol.56(2016), No.4, pp.669-677
久保雅寛, 吉田博司, 上西朗弘(新日鐵住金), 鈴木清一(TSLソリューションズ), 中澤嘉明(新日鐵住金), 浜 孝之, 宅田裕彦(京大)

受賞理由

鋼板のプレス成形性をさらに向上させるためには、多軸変形状態でのマクロ機械特性とミクロ組織との関係を明らかにすることが重要である。これには、負荷中のミクロ組織変化をSEM/EBSDによるその場観察を行う必要があり、これまでに単軸負荷のみの研究が報告されていた。

本論文において、著者らはSEMの真空試料室に入る大きさの二軸引張試験装置を開発した。また、その装置のための二軸引張試験片を、大変形を実現できるように有限要素解析を用いて精密に設計した。これらを用いて、二軸引張変形時の薄鋼板のミク口組織の連続的なその場観察を実現した。

本開発装置を用いて、IF鋼を使った等二軸引張試験を実施し、従来のマクロな等二軸引張試験における集合組織や硬さ変化を、本装置による試験片のミクロ組織変化のその場観察におけるそれらの分析結果と比較した。その結果、開発装置により試験片が等二軸引張状態にあることを明らかになり、本開発装置の有効性が確認された。

本開発手法により、薄板の二軸引張変形下での硬化挙動や、表面性状変化に及ぼすミクロ組織変化の影響などが直接観察できるようになり、各種金属材料の塑性変形挙動におけるミクロ組織の影響のさらなる解明が期待される。

以上より、本論文の学術的・工学的貢献は誠に大きく、澤村論文賞に値するものと評価される。

Dynamic Changes in Interfacial Tension between Liquid Fe Alloy and Molten Slag Induced by Chemical Reactions

ISIJ International, Vol.56(2016), No.6, pp.944-952
田中敏宏, 後藤弘樹, 中本将嗣, 鈴木賢紀(阪大) 花尾方史, 瀬々昌文, 山村英明(新日鐵住金), 吉川健 (東大)

受賞理由

溶鉄とスラグ間の界面張力の変化は鋼の製錬効率や清浄度に影響を与える。界面において化学反応が起こる場合には、界面張力が時間的に変化することが報告されてきた。しかしながら、この界面張力の時間変化のメカニズムについては詳細が明らかになっていなかった。

本論文では溶鉄/溶融スラグ間の反応に伴う界面張力の動的変化を独自の実験方法で測定している。この実験方法では溶鋼表面にスラグ液滴を滴下することができ、かつ溶鋼の表面張力に大きな影響を持つ溶鋼中の酸素濃度をZrO2系の酸素センサーで測定している。このことは界面張力の評価の精度を向上させている。また、鋼中のAl濃度の影響やスラグ側の粘度の影響についても精緻な測定が行われている。さらに、実験結果から界面張力が時間的に変化する現象を界面での酸素および酸化物の離脱・拡散の観点から明快に考察を展開している。

以上より学術的な価値が高く、今後のさらなる研究の発展も期待され、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。

Effect of Iron Ore Reduction on Ferro-coke Strength with Hypercoal Addition

ISIJ International, Vol.56(2016), No.12, pp.2132-2139
内田 中, 山崎義昭, 松尾翔平, 齋藤泰洋, 松下洋介, 青木秀之(東北大), 濱口眞基(神戸製鋼)

受賞理由

高炉の高効率操業にとって高炉原料の反応速性向上が重要である。ここで、炭材と酸化鉄を配置させた塊成物は反応効率が高いため、コークス炉へ石炭ともに酸化鉄を配合するフェロコークスの製造研究が推進されている。

本論文は、フェロコークスの強度向上を目的として、HPC(Hyper-Coal)添加効果を酸化鉄との相互作用の視点で、X線マイクロCTとFEM解析からアプローチした独創性の高い論文である。具体的には、フェロコークスの3次元構造解析を行った上でFEM応力解析によってコークスバルク強度を説明している点、さらにコークス強度の各影響因子を定量的に評価した点が挙げられる。ここで、気孔構造を基質(Matrix)と気孔(pore)の配置で定義されている点が新しい。

上記アプローチの結果、フェロコークス製造過程で酸化鉄の還元に伴って生成される気孔は殆ど増加しない事象を明らかにした。それを踏まえて、石炭粒子の軟化溶融時の粘着性がコークス強度にとって重要であり、HPC添加が有効であると結論付けた。

以上より、本論文は学術上・技術上価値が高く澤村論文賞としてふさわしいと評価される。

ギマラエス賞(1件)

Nb含有フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動に対するSi添加効果

鉄と鋼, Vol.102(2016), No.12, pp.704-713
井上宜治(新日鐵住金),平出信彦(新日鐵住金ステンレス),潮田浩作(新日鐵住金)

受賞理由

本論文では、フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動におよぼすSiの影響を検討している。Si添加の影響は、従来より効果があると言われているが、さらに深く検討した内容となっている。高純度フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動の研究は、実用鋼での評価が多く、個々の添加元素の影響を明確化することはできていなかったが、本論文では、供試鋼の不純物低減とTEMによる詳細な組織解析により、耐酸化性の向上機構、CrだけでなくNbの酸化も抑制している事を明らかにした点、Nb酸化とSi酸化の競合作用を詳細に解析した結果は新規性を含んでおり、フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動に関する大きな理解に繋がったと言える。これらの成果は、今後の高純度フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動の解明において有用な結果であり、スケールとその近傍組織変化に基づいた高純度フェライト系ステンレス鋼の酸化挙動の体系化への発展が期待できる。

以上、本論文は学術上、技術上の両面において高く評価できる内容となっており、ギマラエス賞にふさわしい論文である。